bannai452007-09-28

復刊の前にGood Time Music .comのことについて少々書いておこうかと思う。話は5年前の2002年春にさかのぼる。

今から5年前の2002年は、現在ほど「ブログ」というものの存在がメジャーではなく、僕もその存在を知らなかった(調べてみると、ブログの普及はこの2002年あたりかららしい)。当時、個人で運営しているサイトを所有している友人が何人かいる程度だった。僕もできることなら自分のサイトを持って音楽ネタや古着ネタをひけらかしたい、とは思ってもサイト運営の知識も技術も持ち合わせていなかった。

2002年は音楽に対する情熱があった。もちろん今もあるが、精神状態がずいぶんと違う。その頃は溺愛する音楽に携わって給料をもらっていた。僕はラジオの業界で働いていた。ただ、趣味の延長を仕事にするリスクは少なからずある、と日々考え込んでいたように思う。音楽を溺愛する人間だけが音楽業界にいるわけではない、という現実を思い知らされ、それに辟易し、挙げ句僕自身の音楽に対する情熱が冷めていく気がした。理想と現実の壁がまさに目の前にあった。

20代前半、1999年から2001年の3年間は毎日浴びるほどありとあらゆる音楽を聴き、ラジオというメディアでほぼ100%に近い自己表現ができた、という恵まれた環境を早い段階で味わってしまったことが翌2002年の反動へ繋がることにもなった。この3年間は生涯忘れることのできない3年間。中身は10年分くらいの密度があるといっても過言ではない。

簡単にいうと2002年に大きな挫折を経験した、ということだ。ただし挫折を挫折だけで終わらすわけにはいかない。仕事場での自己表現をしなくなった、できなくなった僕がとった行動は「それなら趣味の世界で思いっきり遊ぶしかない」ということだった。まず手段を考える。ラジオ以外で何があるのか。歌を歌うか?いやいや歌えないし歌いたいとも思わない。僕はどこまで行ってもリスナーでしか存在しない。金太郎飴と同じ。どこを切っても同じ絵柄しか出てこない。

ラジオじゃない、歌でもない、残された選択肢は、文章を書くこと。それはラジオで原稿を書いてDJをして番組を進行することとよく似ていた。あとはそれをどこでどうやって展開するか。

ラジオへの虚無感、あるいは反抗心みたいなものがあり、インターネットのような不特定多数を相手にすることに抵抗があった。もう少し絞り込みたかった。憧れたのはやはり70年代初頭のロック喫茶周辺のような雰囲気で、ある種コミューンのような場所が必要だった。良質な音楽が流れる場所、これが第一優先条件。1977年生まれの僕はあの時代を体験していない。だからこそあの時代への憧れが強く、同時にあの時代をカバーしたかった。コピーではなくカバー。僕なりの解釈を踏まえたカバー。

良質な音楽が流れる場所、すぐに思い付いたのはプリシャスしかなかった。当時のプリシャスは北区・扇町のうす汚れた古い雑居ビルの2階にあり、今の雰囲気よりももっとストイックでラディカルだった。ビルの2階なのに地下室にいるような雰囲気。この頃は週1回のペースで通っていた。入り口のドアを入ってすぐの椅子に座るのがお決まりだった。指定席、とまでは言わないがそこに座るのがいちばん落ち着いたしシェフ・やすしさんとしゃべりやすい位置だった。そしてその席のすぐ後ろにはCD棚があり、バッファロー・スプリングフィールドボニー・レイットニール・ヤングボブ・ディラン細野晴臣大滝詠一、スティーヴィ・ワンダー、アレサ・フランクリンカーティス・メイフィールド、アーサー・コンレイ、ミーターズアラン・トゥーサン、その他ロックからソウル、ブルース、ボサノヴァのCDもあった。店が忙しいときはシェフとゆっくり話ができないからそういうときはその棚を眺めてニヤニヤしていたりもした。営業時間はあってないようなものだったが、深夜1時を過ぎ、他の客がいなくなると、トム・ウェイツの『クロージング・タイム』がよく流れた。そういう時間に聴くこのアルバムはとてつもないオーラを発していた。もしかしたら深夜1時以降のプリシャスのために『クロージング・タイム』は存在している、と思わせるほど。

こんな場所だからこそ僕の書いたものを置きたかった。2002年4月中旬、意を決してプリシャスのシェフ・やすしさんにフリーペーパーを置いてもらえないかと相談したところ、あっさりと快諾。「楽しみやなぁ、オレも勉強させてもらうわ」と笑顔で言われ一安心。そこから1週間以内に第1号を持って行ったと記憶している。

毎月5日と20日の月2回発行、B5サイズの用紙に文字サイズは8で上から下までびっしりと文章を書きたいだけ書いた。タイトルは『Good Time Music .com』。インターネット全盛の時代への皮肉と嫉妬心を込めたタイトルを冠した。第1号は2002年4月20日。取り上げたアルバムはピーター・ゴールウェイの1972年作『ピーター・ゴールウェイ』。基本的には1アーティスト1アルバムと彼らの簡単な経歴の紹介。そのアーティストの必要最低限と思われるデータを記載していきながらアルバムの内容に触れていくスタンス。

2003年8月5日の第30号までの期間は1年4ヶ月。締め切りに遅れることもなく、もちろん休刊もなくコツコツと1年4ヶ月。開始から5年、廃刊から4年。そろそろタイトル通りの場所でお披露目をしたいと思う。復刊に際して本家small town talkとの連動性を考慮して全て小文字表記のgood time music .comとさせていただいた。

ということで次回こそ「good time music .com」のリスタート。しばらくは過去のものを復刻させようと思う。30号全てを、という予定ではなくある程度の厳選はご了承いただきたい。その後は「我が心のdreamsville」の引っ越し、その他随時音楽ネタを書き綴っていく予定だ。御期待いただきたい。