bannai452007-10-16

■Alive On Arrival / Steve Forbert (1978)■
2003.2.20. (Thu)発行


70年代最後のシンガー・ソングライター
70年代初頭、それこそ星の数ほど存在したシンガー・ソングライターたち。僕の好きなSSWを少し挙げてみよう。ピーター・ゴールウェイ、ジェイムス・テイラーキャロル・キング、ボビー・チャールズ、エリック・カズ、トム・ウェイツジャクソン・ブラウン、エリック・アンダーソン。ヒットを生んだSSW、その陰に隠れたSSW、表舞台で活躍したジェイムス・テイラーキャロル・キングの功績は何度も記してきたからもう述べる必要もないだろう。そんなSSW時代のピークは1972年だ。この年を境にシーンも彼らの音楽も変化していく。バンドアンサンブルを重視したり、個のメッセージを主張しなくなったり。時代はAORクロスオーヴァーの波が押し寄せていた。決定打はボズ・スキャッグスの『シルク・ディグリーズ』。1976年。ジェイムス・テイラーもすっかり髭を剃り落とし徐々に髪が抜け始めた時代だ。

倦怠期。ロックシーンが危機に瀕した時代。予定調和だけで誰が満足する。そんなモヤモヤを払拭するべく生まれたパンクロック。50年代のように熱きロックンロールが復活した70年代後半。パンロック元年は1977年とされている。そんなときに時代錯誤ともとれるひとりのアメリカ南部の青年がデビューを果たす。ボブ・ディランに憧れていた彼の名は、スティーヴ・フォーバート。70年代最後のシンガー・ソングライター、と呼ばれた男のストーリーを紹介しよう。

ティーヴ・フォーバートは1954年、ミシシッピ州メリディアン出身。6人の兄と姉、弟、妹がひとりずつの10人兄弟という大家族のなかで育った。決して音楽家族というわけではなく、母親が少しピアノをたしなむ程度だったという。幼いフォーバート少年が音楽に接する機会は教会だった。聖歌をよく歌っていた。次いでラジオ。歌詞の内容はそこそこに、とにかくラジオから流れる音楽と一緒に口ずさむのが癖だった。そして10歳のときに出会うのがビートルズ。ギターを触り始めるのは翌年から。友人たちとアマチュアグループを結成し、人前で歌うことの楽しさに開眼する。レパートリーはビートルズをはじめ、チャック・ベリーエルヴィス・プレスリーなどのロックンロールから、ときにはフォー・トップス、あるいはジミー・ロジャース、挙げ句の果てにはロバート・ジョンソンまで、幅広いジャンルを得意としていた。それらの音楽からの影響で自作自演を始めた。偶然か必然か、1972年のことである。バンド活動に明け暮れる毎日。しかし何かが違う。フラストレーションを覚えるようになったフォーバートが選んだ道はバンドではなくソロパフォーマー

1976年、ミシシッピ発ニューヨーク着の汽車に乗った。目的地は音楽の聖地、グリニッチ・ヴィレッジ。60年代にはディランがいた。アレン・ギンズバーグもいた。スプーンフルもいればティム・ハーディンも徘徊していたヴィレッジ。しかし時代は70年代後半に差し掛かる頃。ヴィレッジにはディランでもスプーンフルでもティム・ハーディンでもない。パンクの波がそこまで来ていた。しかしジョン・ケイルデヴィッド・バーンがいた。時代が変わってもヴィレッジはビートニクで溢れていた。伝統は受け継がれていた。スティーヴ・フォーバートはコーヒーハウスやクラブを転々としながら歌うことを続けた。

ヴィレッジでの活動から2年後の1978年、24歳のときにフォーク畑出身のセッションプレイヤーだったスティーヴ・バーグをプロデューサーに迎え、制作したのが『アライヴ・オン・アライヴァル』だ。彼のデビュー作となる。「ディランズ・チルドレン」と言うべきハスキーな声、シンプルなバッキング、簡潔な言葉で様々な情景を、心理を写し出した歌詞。歌詞と声に惹かれるところはやはりディラン譲りだ。収録されている作品の殆どはニューヨークに来てから書かれたものだそうだが、唯一アルバムの冒頭を飾る「ゴーイン・ダウン・トゥ・ローレル」はミシシッピ時代に書かれたものだ。


「ローレルへ行くんだ。悪臭に満ちたあの汚い街へ」

ローレルとはミシシッピに実在する街の名前だ。

「でも俺にはちゃんとした目的がある。かわいい女の子を見つけるのさ」


そしてニューヨーク時代の名曲は「ビッグ・シティ・キャット」だろう。ミシシッピからニューヨークへやって来た彼が、戸惑いを覚えながらも興奮し、驚きながら、大都会ニューヨークで冷静に生きていこうとする自身の姿が描かれている。


この街では不潔さには不潔さを 目には目を 歯には歯を
そしてため息にはため息を 何もかもがとげとげしい
まるで椅子取りゲームのようだ そして誰もが目を光らせている
しかし、その実、みんな無関心さ
俺だって幸せになれるはず 世界の中心地にいるのだから
俺は群衆の中の顔 俺は大都会の猫


70年代最後のシンガー・ソングライターはその辛辣な姿勢を保ったまま、今も歌っている。


アライヴ・オン・アライヴァル(紙ジャケット仕様)

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