bannai452007-10-20

■Blonde On Blonde / Bob Dylan (1966)■
2003.4.20. (Sun)発行


「じゃ、俺からクイズ。ザ・バーズの『Mr. Tambourine Man』の作者は誰?」
「子供でもそんなの知ってるよ。ディランさ、ボブ・ディラン
「彼の本名は?」
「ロバート・ジムマーマン」
「出来るね」
「当たり前さ」


松本隆著の『微熱少年』のワンシーンである。会話をしている2人は高校生。僕が『微熱少年』を初めて読んだのも登場人物と同じ頃、高校生だった。こんな会話を誰ともしたことがなかった。いや、しているほうが稀だろう。でも、してみたかった。そして当時から僕は、こうやってひとりで文章化して妄想を膨らませていたのである。

1941年5月24日、ミネソタ州デュルースに生まれたボブ・ディラン。正式な本名は、ロバート・アレン・ジンママン。発音によってはジマーマンやジムマーマンとも呼ばれる。ユダヤ人の血を引くジンママン一家は、父エイブラハム、母ビーティ、弟デヴィッドの4人家族だった。少年時代はエルヴィス・プレスリーやリトル・リチャードなどのロックンロールに浸り、その後ブルーズやカントリー、フォークに興味を持ち、ミネアポリスのコーヒーハウスでシンガー、ギタリスト、ハーモニカプレイヤーとして活動を始めている。この頃のディランはフォークシンガーであるウディ・ガスリーに心酔していた。1961年にはそのウディ・ガスリーに会うために、さらにはプロのミュージシャンになるために、地元ミネソタからニューヨークへと渡る。向かう場所は、グリニッチ・ヴィレッジ。言わずと知れたアメリカ音楽の聖地。この地で有名になるのは至難の技だ。しかしディランの名は急速に広がりを見せる。端正なルックス、独特の歌声、周りが放っておくわけがない。

1962年、CBSコロムビアと契約に至り、同年3月にはアルバム『ボブ・ディラン』でデビューを果たす。2ヶ月後には「風に吹かれて」を発表。ピーター、ポール&マリーが同曲を取り上げ大きなヒットを記録し、作者であるディランともども話題となった。他にも「時代は変わる」など初期ディランの名作というべき作品が数多く生まれ、プロテストフォークの若きプリンスとして圧倒的支持を得ることとなった。

ところが1964年の『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』では、タイトルが示すようにこれまでのプロテストソングのディランとは違い、サウンドこそアコースティックではあったが、翌年から爆発するフォークロックの前兆ともいうべき内容で、社会風刺や反戦歌よりもラヴソングなどが多く含まれていた。

1965年からのディランはロックンロールに魅せられた少年時代を彷彿とさせる。『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』、『追憶のハイウェイ61』、そして『ブロンド・オン・ブロンド』というフォークロック三部作を発表した。長いキャリアの中でも代表曲のひとつである「ライク・ア・ローリング・ストーン」はこの時期に生まれたものだ。全米チャート最高2位を記録。フォークシーンからロックシーンへ拠点を移したことで、それまでのフォークファンからは罵声を浴びせられ続ける日々でもあった。ディランのエレクトリック化は保守的なフォーク派にとってそれは裏切り行為だった。1998年に正式リリースされたロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ盤には、フォーク派の観客とディランの生々しい口論が残されている。「ユダ!」と叫ぶ観客に対してディランは返す。「オマエの言うことなんて信じないよ。オマエは嘘つきだ」と冷静に返し、すぐさま演奏される「ライク・ア・ローリング・ストーン」。バックを務めていたザ・ホークス(後のザ・バンド)のギタリスト、ロビー・ロバートソンの「Get A Fuckin' Loud!!」という一言も印象的だ。このスリリングなシーンは何度聴いても鳥肌が立つ。

フォークロック時代のディランの金字塔であり、同時に60年代のアメリカンロックの金字塔である『ブロンド・オン・ブロンド』は、当時としては異例の2枚組アルバムだった。にも関わらず全米アルバムチャートで9位を記録し、シングル「雨の日の女」、「アイ・ウォント・ユー」、「女の如く」もヒット。前2作以上に幅広い音楽性。フォークロックどころではない。ブルーズはもちろん、ロックンロールからカントリーまでをも消化。アルバムは「雨の日の女」から始まり、アナログでは2枚目のサイドD全てを使って収録された「ローランドの悲しい目の乙女」(約11分)という大作を含め全14曲。聴き手に息をつく暇すら与えない。どこを聴いてもディラン。どこから聴いてもディラン。そしてジャケットだ。この鋭い眼光の先には何が潜んでいるのだろう。1966年のボブ・ディランは世界一カッコいい。当時25歳。野心溢れるディランがそこにいる。


「ディランのアルバムでどれが好きですか?」
「そうやなぁ、俺は結構『欲望』とか好きやなぁ」
「僕はね、やっぱり『ブロンド・オン・ブロンド』から抜け出せない感じです」


最近の僕はこんな会話をよくしている。


Blonde on Blonde (Reis)

Blonde on Blonde (Reis)