bannai452007-10-19

■I Love To Play For You 〜Live in Japan〜 / Hirth Martinez (YDCD-30)■

1975年に海の中にいた男は21年ぶりに浜辺から姿を現したかと思うと、その海を渡ってはるばる日本までやってきた。1999月4月、ハース・マルティネスの初来日公演が実現している。そのときの東京公演の模様を収録したのがこの『アイ・ラヴ・トゥ・プレイ・フォー・ユー〜ライヴ・イン・ジャパン〜』である。

大阪ではアメリカ村ビッグキャットでの公演だった。テーブル席を設けしっとりと鑑賞できた、夢心地のステージ。しかもジョン・サイモンとジョン・ホールがサポートメンバーとして参加。ちなみに大阪公演でのジョン・サイモンは阪神タイガースのキャップを被って登場するというサービスもあった。

柔らかいタッチで爪弾くギターと優しい歌声。新作『夢の旅人』を中心に、70年代の「オールトゥゲザー・アローン」や「モスマン・サンバ」なども披露してくれた。自作以外でもスタンダードの「バイバイ・ブラックバード」、なんといっても嬉しかったのはラヴィン・スプーンフルの「デイドリーム」を聴かせてくれたことだ。オリジナルの持つ独特の気怠さを踏まえつつ訥々と歌う。

東京公演を収録した『ライヴ・イン・ジャパン』だが、大阪公演でも印象的だったのは客席の静けさだ。もちろんそれは退屈さなどから来る静けさではない。各テーブル席からなんというか、ハートマークがステージに向けて終始送られているような温かい静けさ。ビールよりもワインをちびちび飲みながら観たくなる雰囲気だった。過去の楽曲や思わぬカバー曲に対して、オーディエンスは歓声よりも誠実な拍手で応える。なかなか体験できないライヴだったと思う。

後半、ジョン・サイモンがピアノで参加するとステージはジャジーな空気に包まれ一気にボルテージが上がる。ハースのギターも歌も冴え渡る。独特のグルーヴを紡ぎ出す。「ビジー・マン」あたりで堪能していただきたい。さらにジョン・ホールが加わりボブ・ディランの「ダウン・アロング・ザ・コウヴ」でそのボルテージは頂点に達しオーディエンスの手拍子も熱い。

それにしても1999年から2002年あたりまでは本当に素晴らしいアーティストたちの来日が実現したものだ。そういう時期がまた訪れてほしい、と切に願う次第である。


アイ・ラヴ・トゥ・プレイ・フォー・ユー?ライヴ・イン・ジャパン

アイ・ラヴ・トゥ・プレイ・フォー・ユー?ライヴ・イン・ジャパン