bannai452007-10-21

■Southern Nights / Allen Toussaint (1975)■
2003.6.5. (Thu)発行


夏に聴きたくなるアルバムだ。季節ごとに聴きたくなる音楽ジャンルというものが絶対的にある。春はブレッドあたりを聴いてのほほんとしたり、秋はシンガー・ソングライター系でしっとりしたい。冬はこたつに入ってコーヒーをすすりながらラヴィン・スプーンフルを。夏は敢えて暑苦しいサザンソウルを聴きたくなったりもするが、アラン・トゥーサンの『サザン・ナイツ』は別格だ。50年代からプロデューサー、ソングライター、そしてシンガーとしてニューオーリンズの音楽シーンを支えてきたアラン・トゥーサン。1975年の『サザン・ナイツ』では、悟りを開いたかのように落ち着いた、大人の音楽を展開している。

アラン・トゥーサンは1938年ニューオーリンズ生まれのニューオーリンズ育ち。生粋のセカンドライン野郎だ。父がプロのトランぺッターであったことから早くから音楽に親しみ、ピアノを始めている。父に限らず、兄はギタリスト、姉はクラシックのピアノを得意とし、まさに音楽一家であった。トゥーサンは10代半ばで最初のグループ、ザ・フラミンゴスを結成。ただしこのグループはあくまでもアマチュア時代に組んだグループであり、プロとしての活動に入るのは50年代後半からで、ニューオーリンズではファッツ・ドミノと人気を二分していたシャーリー&リーのバックミュージシャンのひとりとしてであった。1年余り彼らと活動を共にしたあと、その後はクラブなどで演奏を続け、ファッツ・ドミノの重要なパートナーであったデイヴ・バーソロミューと出会ったことから、主にレコーディング制作の仕事に携わるようになった。アマチュア時代のフラミンゴス在籍の頃から演奏することよりもいかに優れたアレンジをするか、ということに興味を持っていたというから、レコーディングスタジオでの裏方作業はトゥーサンにとってまさに打ってつけだったことだろう。ソングライターとしてアーニー・K・ドゥの「いじわるママさん」をチャートに送り込んだり、プロデューサーとしてはジェシヒルの「ウ・プ・パ・ドゥ」、クリス・ケナーの「ダンス天国」、アーロン・ネヴィルの「オーヴァー・ユー」、リー・ドーシーの「ヤ・ヤ」など、これこそ枚挙に暇がない。60年代のニューオーリンズR&Bのヒット曲を聴けば大半はトゥーサンが絡んでいる。

ところが1963年からの2年間、アラン・トゥーサンは陸軍に入隊するあいだにシーンは下火になってしまい、低迷期を迎えていた。兵役後、一念発起したトゥーサンはサンスー・エンタープライズというレーベルを設立。再びリー・ドーシーを手掛け、「ライド・ユア・ポニー」、「ワーキング・イン・ア・コール・マイン」などのヒットを生んだ。その後のニューオーリンズの底辺とも言えるミーターズが活動し始めるのもこの頃だった。

プロデューサー:アラン・トゥーサン、看板シンガー:リー・ドーシー、専属ミュージシャン:ミーターズ、というトライアングルが完成し、ニューオーリンズの音楽シーンはかつての活気を取り戻した。これこそが60年代後半から70年代半ばまで続く、ニューオーリンズR&B第二期黄金時代である。この時代を全米規模にまで押し上げたのは、1972年のDr.ジョンの『ガンボ』であり、『ガンボ』以降、原点回帰したDr.ジョンを手掛けたのは言うまでもなくトゥーサンだ。1973年の『イン・ザ・ライト・プレイス』、翌年の『ディスティヴリー・ボナルー』の2枚をプロデュース。紛れもないニューオーリンズ・ファンクの傑作盤。前述の看板シンガーをリー・ドーシーからDr.ジョンへとスライドさせた見事なトライアングルだった。

アラン・トゥーサンの本業はあくまでもプロデューサー、アレンジャーだが、わりと早い時期から自身のアルバムも発表している。1枚目は1958年、2枚目はインターバルを置いての1971年、さらに1972年には『ライフ、ラヴ・アンド・フェイス』という名盤を残している。そして我が国でのデビュー盤となった『サザン・ナイツ』は1975年発表。バックにミーターズを従えての制作だが、Dr.ジョンの諸作で展開したようなゴリゴリのニューオーリンズ・ファンク、というものではなく、当時のロックシーンで台頭しつつあったAOR風の肌触りだ。だからといって単調なものや薄っぺらい楽曲など存在しない。ミーターズはやはりあの独特のリズムを、サウンドを刻んでいるし、何よりもホーンセクションの多用がキーポイントだろう。ザ・バンドアラン・トゥーサンのホーンアレンジに惚れ込み、「ライフ・イズ・ア・カーニヴァル」を吹き込み、さらにはライヴ盤『ロック・オブ・エイジズ』でホーンアレンジを依頼したほどの実績を持つ。

アルバム冒頭を飾る「ラスト・トレイン」での印象的なホーンソロ、他にも「ワールドワイド」や「ベイシック・レディ」、ボズ・スキャッグスボニー・レイット、ロウウェル・ジョージが取り上げた「あの娘に何をして欲しいの」など、これぞトゥーサン節炸裂の名曲が並ぶ。ハイライトは誰が何と言おうがタイトル曲「サザン・ナイツ」だ。流麗。豊潤。これ以上の表現は見当たらない。

「南部の空は目を閉じない限り、いつも晴れ渡っている」

これを聴きながら目を閉じ、アメリカ南部の空を思い浮かべる人も多いだろう。そして目を開けジャケットを眺める。それだけでいい。それがいい。

今年もそろそろ夏がやってくる。エアコンが活躍する毎日が訪れることになるが、僕はアラン・トゥーサンの『サザン・ナイツ』を聴くときには、ある種の儀式ともいえる行動をとる。エアコンを止め、扇風機をまわし、ゆっくりと、ゆっくりと聴き込む。そうやって賞味期限のない音楽の食べごろを楽しんでいる。


Southern Nights

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