bannai452007-11-26

■Road to Louisiana / Harry & Mac (1999)■
70年代、日本の音楽シーンでいち早くニューオーリンズ音楽に目をつけた2人が、20世紀もそろそろ終わろうかという99年に突如発表した『ロード・トゥ・ルイジアナ』は、タイトルが示すように彼らの原点であるルイジアナ州ニューオーリンズへと向かっていた。ハリー=細野晴臣、マック=久保田麻琴。これまで互いのアルバムに参加していることはあっても2人のユニットとして発表したアルバムはこれだけだ。僕にとっても思い入れがある1枚だ。


「これ、余ってるんで、よかったら番組で使ってください」

と独特の間合いをとりながら低いトーンで話す師匠が僕に渡してくれたのが、この『ロード・トゥ・ルイジアナ』のサンプル盤だった。大手のラジオ局とは違い、僕が働いていたところは自分でレコード会社に連絡をしないと届かないものがほとんどだった。ましてやこんなマニアックな盤がヒットチャートを賑わす盤とともに送られてくるはずがない。これを渡される数日前、僕と師匠は2時間くらいの音楽談義をかわしていた。僕は周囲の先輩スタッフから、ベテランの人ですごいオタクがいる、という噂を聞いていた。一方の師匠は、最近入った新人で若いのにオタクがいる、という噂を聞いていたらしい。ある日、収録が終わり雑用を済ませ帰り支度をしていた僕の前に師匠が現れた。レイバンの黒ぶち眼鏡にアゴ髭をたくわえた人物。ネルシャツにリーバイスジーンズ、レッドウィングのワークブーツ。右手には黒い鞄。びしびしとオーラがほとばしっている。

「時間、あるんやったら、ここに、座りませんか」

とテーブルを指差しながら師匠は椅子に腰をかける。僕も座る。ご指名だ。これを逃してはならないと僕は鼻息荒く自分の好きな音楽のことを話した。ボブ・ディランザ・バンドジェイムス・テイラーキャロル・キングCCRニール・ヤング、アルドン系、はっぴいえんど細野晴臣カーティス・メイフィールドetc。「大滝詠一は神様です。『ナイアガラ・ムーン』のLPは3枚全部持ってます」と言うとガッハッハと豪快に笑う姿が印象的だった。

出会うべくして出会った人だったのだろう、とつくづく思う。そんな師匠から『ロード・トゥ・ルイジアナ』を渡された、というのもニューオーリンズとの縁を感じる。

久保田麻琴の歌手活動再開へのリハビリという企画だったというが、リハビリどころかしばらく歌っていなかったことを忘れさせる見事な歌いっぷりだ。東京、L.A.、そしてニューオーリンズでのレコーディング。世界を見渡してみてもニューオーリンズと極めて関わりが深いこの3都市でのレコーディングは非常に意義がある。ジム・ケルトナー、ガース・ハドソン、山岸潤史、鈴木茂林立夫、サンディーなど国内外のアーティストがゲスト参加。幅広いゲストの効果は随所に見受けられ、例えばこのアルバムはコテコテのニューオーリンズ音楽かというとそうでもない。日本(東京)を出発、L.A.を経由しアメリカ各地を転々とした最後に辿り着くのがルイジアナ、だということ。ニューオーリンズのスパイスを全編にまぶしたルーツミュージックのお手本とでもいうべきか。選曲のうまさも一役買っている。「クレイジー・ラヴ」(ヴァン・モリソン)、「時にまかせて」(金延幸子)、ハリーの「チューチュー・ガタゴト」と「Pom Pom蒸気」。特に「クレイジー・ラヴ」だ。先述の3都市で録音され、マックの歌、ハリーのベース、鈴木茂のギター、ガース・ハドソンのアコーディオンとオルガン、ジム・ケルトナーのドラムが一体になった素晴らしい仕上がりとなっている。

そしてやはり、マックの歌心に溢れている。「イージー・ライダー」でのガース・ハドソンが弾くアコーディオンとの相性や、アイルランドの子守唄「Too Ra Loo」にはどこか日本の匂い(しいて言うなら童謡のような)も漂う。サンディーとのデュエット「Malama Pono」はハワイアン・オキナワンだし、アルバムを通して終始一歩下がってどっしり支えている細野晴臣の存在感もさすがだ。今回で3度目の録音となる「チュー・チュー・ガタゴト '99」はJ.J.ケイルのような雰囲気が素晴らしい。


Dedicated to the memory of Ronald Raymond Barrosse a.k.a Ronnie Barron

裏ジャケットにはこう記されている。そう、このアルバムは97年にこの世を去ったロニー・バロンへ追悼の意を込めたアルバムでもあった。ハリーとマックがいかにロニーに影響を受けていたのかがよく伝わる。もし、彼が生きていれば、あの伸びのあるコーラスやコロコロと転がるピアノをプレイしてくれたに違いないだろう。