bannai452008-07-17

■Stand By Your Man / Candi Staton (1970)■
キャンディ・ステイトンの『スタンド・バイ・ユア・マン』に針を落とすとき、あのレコード店を思い出す。東心斎橋にあったACE RECORD。ブルース、ソウル・ファンには非常に有名な店だったはずだ。中途半端に物色するだけだと店を追い出されそうになる、あのクセのある主人。清潔感のないロングヘアに眼鏡という出で立ちのあの主人が懐かしい。僕と友人Sはいつも「エースのおっさん」と呼んでいた。

貴重盤の品揃えは相当なものだった。にわかソウル・ファンだった19歳の僕には陳列されている盤のことはちんぷんかんぷんだった。そして何よりエースのおっさんの威圧感に圧倒された。そもそも店に入ろうとしたときに鍵をかけ、どこかに行こうとしていた。「銀行行くから1時間後くらいに来てくれるかな!」と何故か一喝されたことを記憶している。

数時間後、店に入ると僕のことを覚えていた様子で不機嫌そうに「何探してんの?」と聞かれ、「いや、あの、キャンディ・ステイトンの『スタンド・バイ・ユア・マン』なんですけど...」とおそるおそる答えた。その答えに少し重なりながら「ん?あー高いよ。やめとき」とねじ伏せられた。

Female Singerのコーナーにたしかに『スタンド・バイ・ユア・マン』はあった。フェイムのオリジナルLP。目玉が飛び出そうになる値段だった。「やめとき」の一言は、正解だった。

その後、僕はもう一度だけACE RECORDを訪れている。あの日のエースのおっさんは牛乳を飲みながらファミコンに興じていた。古いソフトだった。グラディウスとかそういう類いの。ブラック・ミュージックの名盤がずらりと並ぶ狭い店内に響く、チープな電子音。思い返してみると、それは少し哀愁のある風景かもしれない。

2000年代に入ってからだと思うが、ACE RECORDはひっそりと閉店していた。移転しているのでは?とふと思い、ホームページなどあるはずがないだろうが検索してみたところ、願いは通じずやはり閉店していた。6年ほど前だという。そしてエースのおっさんも3年前に亡くなられていた。

数年後、『スタンド・バイ・ユア・マン』は再発LPを他のレコード店で購入することができた。念願の1枚だったにもかかわらず、不思議とどこで手に入れたか思い出せない。LPに針を落とすと、エースのおっさんを思い出す。天国で名だたるソウル・シンガーたちにサインをもらっているに違いない。