bannai452008-11-07

■Scholi Song Book vol.1 / スチョリ (2008)■
雨の夜に聴いた。だからというわけではないが、雨の匂いがする音に聴こえる。
優しく、そぼ降る雨。気付けば地面が黒く塗られていて、街を行く人々はようやく傘を広げだした。秋の夜の雨はどこか寂しく、どこか暖かい。その夜、僕はお気に入りのいつものレコード屋に向かった。ついにスチョリの新作が発売されたのだ。

サ行の棚にそっと陳列されたスチョリの新作。まるでブートレグのような簡素なジャケットには『Scholi Song Book vol.1』とだけ記されている。裏ジャケットは曲名だけだ。手に取ると僕の血がみるみる沸騰する。やれやれ、好きなアーティストの作品に初めて触れたときはいつもこうだ。それでも興奮をなんとか抑え、レジで精算し、家路につく。

歌詞カードはスチョリ自身による手書きのもので、ラリーパパのデビュー盤を思い出させたりもした。あのバンドの音楽に惚れ込んだのもこんな季節だった。「日本にもザ・バンドがいたんだね」そんな言葉が目の前を通り過ぎた気がした。

ノラ・ジョーンズ「ドント・ノウ・ホワイ」、カーペンターズ「遥かなる影」、キャロル・キング「ソー・ファー・アウェイ」をしなやかに、あるいは秋の夜の雨のように優しく、どこか寂しげに歌われていく。最後は唯一のオリジナル曲「いつの日か」で締めくくられる。その歌にはこんな一節があった。


ありもしない魔法にかかる  それでもいいのかい?


僕の手元にはスチョリの新作は、無い。物質として存在しない。自宅でパソコンのキーボードを叩くだけだ。そうしてダウンロードした音源がデータとしてパソコンの中にだけ存在している。それを繰り返し聴き、脳に焼き付けている。そして魔法にかかった僕は、頭の中で物質化した『Scholi Song Book vol.1』を眺め、聴き惚れている。

外の雨は止んでいた。けれど、僕にかけられた魔法はとけそうにない。