bannai452009-07-08

Jackson Browne / Jackson Browne (1972)■
7年前のことだ。
僕と友人B夫妻の3人は、阪急神戸線塚口駅から歩いてすぐのところにあるバーのカウンターに腰を下ろしていた。8月のことだったと記憶している。僕の記憶力は相当いいほうだからおそらく間違いないだろう。僕はそういう人間なのだ。

薄暗い店内、カウンターの奥にジェシ・デイヴィスの『ウルル』のLPがひっそりと置かれているのが印象的だった。厄介な音楽バーにありがちな押しつけがましさは皆無で、居心地の良い風格のようなものだけが店内を包み込んでいた。

窓の外に見える駅前の七色のネオン、物静かなマスター。気分上々の友人B。ここにピンボールがあればな、と思いながらジントニックを啜る。

ある夏の断片、僕たちはカウンターに肘をつきながら話し込んでいた。情景の細部まで思い出すことができる。ごく控えめに言って、その日の服装まで思い出すことだってできる。けれどその空間で流れていた音楽のことだけは不思議と思い出せない。僕の記憶力は相当いいほうなのに、まるで思い出せない。情景に溶け込んでいるはずの音という音が聴こえてこない。

それでもなんとか記憶をたぐり寄せ、音のない世界でボリュームを最大限までひねってみる。するとどうだろう、ジャクソン・ブラウンの歌が微かに聴こえてきた。