bannai452007-10-09

■ガースの世界 / Garth Hudson (YDCD-0070)■
ザ・バンドの音楽博士、と称されてきたガース・ハドソンが繰り広げる音楽世界はコズミックでファンタジー、あるときはドラッギーに。邦題は『ガープの世界』から拝借しているだろうが、まさにこれしかないというタイトルだ。『ガースの世界』。原題は『The Sea To The North』。

40年近いガースの音楽キャリアで初のソロアルバムだからといってガース本人がヴォーカルをとるわけではない。第一この人がまともに歌っている姿を見たことがない。一心不乱に髪を乱しながらキーボード類を弾く姿、『ラスト・ワルツ』で「同じことさ!」のあの素晴らしいサックスソロを披露する姿、「エドサリヴァン・ショウ」出演時の時代錯誤なファッション(これは全員だが)など。何十年と伸ばしてきたあの髭が全てを物語る。

アヴァンギャルドプログレッシヴなインストナンバー「ザ・サーガ・オブ・サイラス・アンド・マルグルウ」で幕開けるアルバム。収録タイム11分56秒。ガースとエリック・アンダーソンの共作「ザ・ブレイカーズ」が唯一まともな歌があり少しホッとできる。「サード・オーダー」では旧友リヴォン・ヘルムがドラムで参加。後半にはヨレヨレでいぶし銀なドラムソロも収録されている。そしてこのアルバムでいちばん驚いたのはガースの声を聴けたこと。「ダーク・スター」がそれなのだが、それはヴォーカルというよりリーディングに近い。ラストの「リトル・アイランド」はガースのピアノ弾き語りによる美しい作品。

ザ・バンドの楽曲、例えば「チェスト・フィーヴァー」や「ザ・ジェネティック・メソッド」が当時のロックと比べてみるとどう考えても異質なものだった。大体ザ・バンド自体がアメリカンロックを代表するグループだった、と言っても彼らのうちアメリカ人だったのはリヴォン・ヘルムのみで残りはカナダ出身。このカテゴライズがすでに奇妙だ。『ガースの世界』はあの当時のガースと何も変わっていない。やってることに少しの変化もない。むしろ練り上げてあの頃からこういう感じでしたよ、と言っているようにも聴こえる。このアルバムはロックでもジャズでもない。ましてやクラシックでもない。ガースが奏でる唯一無二の音楽世界、すなわちガースの世界なのである。

ザ・シー・トゥ・ザ・ノース ~ガースの世界

ザ・シー・トゥ・ザ・ノース ~ガースの世界