bannai452007-10-26

■Browning Bright / Browning Bryant (1974)■

70年代の中盤にさしかかる頃、ニューオーリンズ・ファンクの影響を受けた白人アーティストの"ニューオーリンズ詣"。ジェス・ローデン『ジェス・ローデン』、フランキー・ミラー『ハイ・ライフ』、ロバート・パーマーの『スニーキン・スルー・ジ・アリー』などがこの時期に生み出された名盤。彼らの訪ね人は、アラン・トゥーサン

そのアラン・トゥーサン絡みのアルバム群で30年以上世間から身を忍ばせていた作品がこのたび世界初CD化の快挙だ。ブロウニング・ブライアントなるアーティストの『ブロウニング・ブライアント』。1974年発表。ミーターズの面々をバックにトゥーサンがプロデュースのもと制作された。ジャケットは何度か雑誌などで見た記憶があるくらいのレア盤。自慢じゃないがこれまで現物には出会ったことがない。レアなだけで意外と散漫だったりするんじゃないの?という懸念もあったが、大間違いだ。前言撤回。素晴らしい。70年代の隠れ名盤はまだまだあったのか、と無知な自分に落胆したくもなる。

何と言っても驚いたのはブロウニング・ブライアントは当時16歳という若さ、ということだ。なんなんだこの16歳。少年と青年のあいだを彷徨う危うい感じでもない、かといって老成しているというのも適切ではないし。線は細いが伸びのあるヴォーカルが心地良い。この心地良さはちょっと異常だ。仕上げたトゥーサンの手腕もすごいが。

小川真一氏のライナーによると何故ブロウニング・ブライトがニューオーリンズ詣を行ったのかは分からずじまいだそうだが、1974年というとDr.ジョンの『ディスティヴリー・ボナルー』が発表された年で、翌年にはトゥーサン自身が『サザン・ナイツ』を発表する時期。アルバムはちょうどその中間というか、ニューオーリンズサウンドが生み出すほどよいアクの強さとSSW然としたブロウニング・ブライアントの歌の世界がブレンドされている。

1曲目の「ユー・マイト・セイ」のイントロ、それもピアノの3音目、アラン・トゥーサンのそれとわかるメロディラインで口元が緩み、その笑みは終始絶えない。ニヤニヤしっぱなしだ。女性コーラス、リズム、サウンド、ヴォーカル、全てが一級品だ。ゴスペルライクな「セイ・ユー・ウィル」、塩味ファンクな「リーヴ・ザ・レスト・トゥ・モリー」。白眉は「リヴァプール・フール」だ。圧巻、の一言。レアグルーヴ全盛期の10数年前ならもっと評価されているだろう。ドラムとベースのリズム隊が絶妙だ。僕がコンピレーションを作るならオデッセイの「バトゥンド・シップス」の次にこの曲を持ってきて、トゥーサンの「ソウル・シスター」でどうだ!。...とそんなハナシはどうでもいい。とにかく完成度の高さは言うまでもない。隠れ名盤の域だが音楽ファンならば間違いなく気に入るはずだ。耳が肥えてくるとこういうものばかり聴きたくなるのが性、かもしれないが。しかしここで商業的成功を収めていれば次回作あたりでブロウニング・ブライアントの違う側面が見れたかもしれないと思うと非常に残念ではある。16歳のシンガーが残した青春の1ページはあまりにも大人びている。


ブロウニング・ブライアント

ブロウニング・ブライアント