bannai452007-11-01

ニューオーリンズ音楽に深くのめり込むきっかけは、大滝詠一細野晴臣の存在が大きい。『ナイアガラ・ムーン』と『泰安洋行』の2枚がルイジアナへの道を切り開いてくれたのだ。諧謔性に満ちた『ナイアガラ・ムーン』、和洋折衷な『泰安洋行』。ここからルーツ探索を始め、まずDr.ジョンの『ガンボ』にぶち当たる。当然、そこから『ガンボ』のルーツを辿り、50〜60年代のニューオーリンズR&Bに出会う。予定通りハマる。まぁこれは儀式みたいなものだ。日本のファンならこのルートは避けて通れないかもしれない。細かく言うと、『ナイアガラ・ムーン』のライナーノーツが『ガンボ』のそれを模しているだとか、そういう部分も大きい。

ニューオーリンズには一度訪れている。20歳のときだ。エディ・ボーのライヴを小さなバーで観た。チケット代は観終わったあとに各々が適当に払ってください、という値段設定のないライヴだった。レジ台の上に相当使い込んだ瓶がありそこにドル札を入れる。それまであちこちで調子に乗ってレコードを買い漁っていたこと、そのライヴは観光の終盤での出来事、ということもあり、軍資金が底をつく寸前でたった10ドルほどしか入れられなかった苦い記憶がある。

ガンボも食べた。バイユーカントリーならではの湿った気候も味わえた。現地に住む日本人が藤井フミヤの「トゥルー・ラヴ」を弾き語りでたっぷりフルコーラスで歌ってくれた、というどうしようもない思い出もある。ホームステイ先の家族は父親と別居していて、母と娘の二人暮らし。娘は16歳で反抗期真っ只中、なかなか気を遣う空間ではあったが、全てはニューオーリンズで体験したこと。楽しくないわけがない。

つい最近のことだが、『ニューオーリンズ・ミュージック・ガイドブック』という1冊の本がPヴァインから出版された。ジャズ、ブラスバンド、ブルース、R&B、ソウル、ファンク、ロック。ディスクレヴューは名盤から珍盤までその数は700枚を超える。ここまでニューオーリンズ音楽の核心に迫った書籍というのもあまり前例がない。とにかく圧巻の1冊。1ページ目のプロフェッサー・ロングヘアのポートレイトがたまらなくいい。中身は順番に読む必要がない。その日の気分でジャズの項を読んだりソウルの項を読んだりすればいい。どこから読んでもニューオーリンズ音楽の神髄に触れることができる。文字通りこの湿地帯は一度足を踏み入れると二度と抜け出せない。底なしの魔力がある。微力ながらそんな魔力をここでも今後取り上げたいと思う。

ニューオーリンズ・ミュージック・ガイド・ブック (P‐Vine Books)

ニューオーリンズ・ミュージック・ガイド・ブック (P‐Vine Books)