bannai452007-11-03

■Gumbo Ya-Ya -New Orleans 28 All Time Hits- (1988)■

ニューオーリンズ音楽とは如何なるものか?ということを意識して最初に買ったのは友人Sに教えてもらった『ガンボ・ヤ・ヤ』というコンピレーション盤と記憶している。60年代から70年代初頭までのニューオーリンズR&Bのヒット曲を網羅した、入門編としては最適な1枚だった。87年にLP2枚組で発表し、翌年に一部の曲を差し替えてCD化、監修は湯浅学氏。ナイアガラ周辺にどっぷり浸かっていた時期でもあったから、氏の監修ということで安心感もあった。僕がこれを買ったのは96年頃。ガイドブックによると現在廃盤ということなので中古レコード店などで見つけた際は迷わずレジに向かっていただきたい。

60年のジェシーヒル「ウー・プー・パァ・ドゥ」から70年のアール・キング「ストリート・パレード」までの10年間をほぼ年代順に収録し、ニューオーリンズR&Bクラシックスというべき名作がずらり、だ。この時代を牽引していたのはアラン・トゥーサンであり、ここに収録されたほとんどの楽曲には彼が何らかの形で関わっているところにも注目したい。

ローカルヒットで終わらなかったニューオーリンズR&B。アーニー・K・ドゥの「マザー・イン・ロー」は61年のポップス、R&Bチャートで堂々の1位を記録し、クリス・ケナー「アイ・ライク・イット・ライク・ザット」は61年のポップス、R&B両チャートで2位、リー・ドーシーの「ヤ・ヤ」もR&Bで1位、ポップスチャート7位を記録。両チャートでトップ10圏内にランクインが多かったのは圧倒的に60年代前半で、スワンプポップと呼ばれる彼の地独特のシンコペーションとキャッチーなメロディが特徴だ。もちろん60年代中盤以降も多くのヒットを生んでいるが、ミーターズの出現によりサウンドはより粘着質になり、来たるべきニューオーリンズ・ファンクを予見させる楽曲が目立つところも、このコンピレーションが年代順に並んでいることでよく理解できる。

収録曲の目玉となると、『ナイアガラ・ムーン』から経由した僕にはまずアーニー・K・ドゥの「マザー・イン・ロー」だ。「楽しい夜更し」の元ネタであり、同時にニール・セダカの「スウィート・リトル・ユー」の元ネタである。その昔、Dr.ジョンの『ガンボ』の原曲を収録した企画盤『ルーツ・オブ・ガンボ』を真似て、『ルーツ・オブ・ナイアガラ・ムーン』というものをカセットテープで作り、「マザー・イン・ロー」と「スウィート・リトル・ユー」の両方を入れてニヤついていた記憶がある。ミーターズの「チキン・ストラット」も『ナイアガラ・ムーン』経由。ストラット、ということばの響きには異常に惹かれたものだ。その他『ガンボ』経由ではディキシー・カップスの「アイコ・アイコ」も重要だ。

男性シンガーが多いなか、アーマ・トーマス「イッツ・レイニング」やベティ・ハリス「ニアラー・トゥ・ユー」の女性シンガーならではのエモーションには圧倒される。「ニアラー・トゥ・ユー」はエルヴィス・コステロアラン・トゥーサンの共演盤『ザ・リヴァー・イン・リヴァース』(2006年作)で取り上げている。スモークしたような香ばしさがある素晴らしい仕上がりだ。

92年には続編『ガンボ・ヤ・ヤ vol.2』を文屋章氏が監修を務め、年代は前作よりもさらに遡り、40年代後半から60年代中盤までのR&B、ジャンプブルースなどが中心だ。デイヴ・バーソロミュー、ジェイムス・クロフォード、スマイリー・ルイス、ジェイムス・ブッカー、スヌークス・イーグリンなど。『vol.1』を買うなら当然『vol.2』も押さえておきたい。

『ガンボ・ヤ・ヤ』のおかげで当時の僕はいよいよ本格的にニューオーリンズ音楽にのめり込んでしまい、その魔力に取り憑かれてしまった。あの街から届く音楽は魔法というより魔力だ。陽気な魔力とでも言えばよいだろうか。特に70年以降のアラン・トゥーサン周辺に興味を持ち、Dr.ジョン、リー・ドーシー、ミーターズなどのアルバムを揃えていくことになるのである。