bannai452007-11-04

■Good Times Are Comin' / rallypapa & carnegiemama (YDCD-0066)■

2001年9月、大阪のとあるラジオ局で働いている僕のもとにdreamsvilleから送られてきたサンプル盤は、いつも通り茶色い紙ジャケットに封入されているそっけないCD-R。茶紙ジャケにはアーティストとタイトル名、発売日、価格、CD番号などと3行のコピーが添えられていた。


薫り立つサウンドと、味わい深いヴォーカル。
気がつけばどこか懐かしい叙情的な世界に引き込まれている。
5人の若者がグッド・タイムを引き連れてやってきた。


僕の場合、サンプル盤はタイトルやライナーノーツ、バイオグラフィなどの事前情報はなるべく先に読まないようにしていた。先入観を排除してまず作品を聴いてみてから詳細を知ることがモットーだった。リスナーの延長としてラジオの職に就いていることへのプライドとでも書いておこう。

局内にあるデスクワークや選曲をする狭い部屋、そこにあるデッキにCD-Rを入れプレイボタンを押す。

...アコースティックギターがフェードインし、泥臭い声とメロディー。ドラム、ピアノ、ベースが順に乗りかかり、遠い彼方ではエレキギターが吠えている。組曲のようにめくるめく展開をみせるメロディー、70'sウェストコースト風のコーラス、2分を過ぎる頃には僕は外界をシャットアウトし、彼らの世界に没頭していた。はっぴいえんどCSN&Yグレイトフル・デッドザ・バンド、聴きながらそんなグループやアーティストの名前が頭に浮かび、前述のように詳細を見ていなかった僕はてっきりマイナーなオヤジバンドをdreamsvilleは発掘でもしたのかな、と思った。

バイオを読む。唖然。5人の若者だ。それも70年代中盤から後半に生まれた、僕と同世代の人間が集まっている。しかも関西出身のバンドだ。チョウ・ヒョンレ、キム・ガンホ、辻凡人(つじぼんど)、キム・スチョリ、水田十夢(みずたとむ)という5人。彼らの名はラリーパパ&カーネギーママ。全身の血が沸騰し、僕の理解者であり、当時最良の仕事のパートナーであったニコプンにまず聴かせた。「ニコプン!すごいのが出てきたぞっ!」とか言いながら聴かせると、「ほんまやなぁ、はっぴいえんどとかみたいやなぁ。あ、でもはちみつぱいとかそっちにも近いねぇ。よかったねぇ」とニコニコしながら言う。「せやねん!ほんでな、こことかな、ほれ、CSNの「青い眼のジュディ」みたいな感じやねん。ほんでほれ、ここはデッドやん。すげーなーすげーなー」と僕。

とにかく冷静ではいられなかった。すでに僕はもう彼らの大ファンになってしまっていたのだから。僕たちの世代にはっぴいえんどみたいなバンドがようやく登場してくれたことに僕は心底喜んだ。あの頃の東京の匂いがする大阪のバンド、というのもすごく魅力的だった。

デビュー盤『グッド・タイムズ・アー・カミン』は元々その年の5月に800枚限定で自主制作盤として主にライヴ会場などで販売されたが、数ヶ月後には完売。しかしこれではもったいない、素晴らしいバンドだし是非ウチで、ということでdreamsvilleが目をつけ再プレス盤を全国発売。2001年9月27日のこと。そのサンプル盤が僕のもとに送られてきたというわけである。

わずか4曲しか収録されていないミニアルバムを僕は何度も何度も聴いた。ラジオでも毎週オンエアした。「冬の日の情景」、「ふらいと」、「まちとまち」、「風に乗って」。はっぴいえんどはちみつぱいザ・バンド、ジョーママ、CSN、グレイトフル・デッドミーターズ、その他諸々あの頃の音楽が好きな人間が聴けば納得してしまう力がこの4曲には内包されている。

アルバム発売からまもなく、僕は彼らのステージを観た。ブーツカットジーンズ、ネルシャツ、ウェスタンブーツ、テンガロンハット、ニット帽、5人の風貌までもが70年代だった。そして着こなしている。見事に。無理がない。自然体。観客はルーツミュージックが好きそうなオヤジ世代、可愛いのにアメリカンな古着でオシャレしたくなる音楽オタクな若い女性から、あの頃に憧れ続ける後追い世代の僕のような人間で埋め尽くされていた。こういう場に足を運ぶ人間はわいわいがやがやしないタイプが多い。彼らの一挙手一投足を見逃すまい、と独特の空気が会場を支配する。

スタジオ盤よりもどっしりとしていて、かつファンキーで、メリハリがある演奏と歌。僕は調子に乗って最前列で観た。ザ・バンドの「オールド・ディキシー・ダウン」を日本語で歌う「夏の夜の出来事」も披露してくれた。タイトルと歌詞が変わり、それはもう彼らの曲となっていた。とんでもないバンドが本当に現れたのだ、とそのとき確信した。

この時期はやはり『グッド・タイムズ・アー・カミン』が聴きたくなる。そして聴くたびにあのときの感動が甦る。フェードインするアコースティックギター、泥臭い声とメロディー、エレキギターが遠い彼方で吠えている...。今日も彼らは「Good times are comin'...」とつぶやいている。