bannai452007-11-06

■dreamsville / rallypapa & carnegiemama (YDCD-0090)■
dreamsville recordsから発表したアルバムタイトルが『dreamsville』。おちょくっているわけではない。彼らがよく使うことばに「夢」や「街」がある。このアルバムの1曲目は「夢の街へ」というタイトルで、英語にするとうまい具合にdreamsvilleになる、ということでこのタイトルが決定したという。2002年8月22日リリース。全6曲だが彼らにとって最初のフルアルバムである。

前年の秋にラリーパパを知り、どっぷりその音楽に浸り、仕事の調整をしながら足しげく彼らの出演するライヴに通った。ライヴといってもイベントに出演する数組のバンドのひとつだから多くて5〜6曲を演奏、しかもデビュー盤はたった4曲、という状態だったのでとにかく満足できなかった。ファンとは欲張りなものだから厄介である。この年の印象的なステージといえばまず『春一番コンサート』に出演したことだろう。たしか演奏したのは2曲だったと記憶している。さすがに本当のオヤジバンド、オヤジ世代の客層の中に彼らが登場するといやに若く見えた。若いと言ってもフレッシュな若手バンドというより、ストイックな音楽オタク若手集団という趣き。わずか2曲だがその存在感を存分にアピールできていたのでは、と思う。

デビュー盤よりもリズム隊がどっしりと安定感を増し、ギターは縦横無尽に疾走し、なによりヴォーカルの2人のそれぞれの個性がくっきりと分かれ、さらにそのブレンド感がたまらなくいい。南部系のチョウ・ヒョンレ、都会派のキム・スチョリ。スチョリのヴォーカル曲は「夢の街へ」、「終わりの季節に」、「おしまい」。一方のチョウは「白い雲の下」、「道々」、「心象スケッチ」。曲によっては2人でヴォーカルを分け合いながら。お互いの楽曲にするっと入ってくるコーラスワークなど筆舌に尽くし難い。

収録曲の半数近くはこれまでのライヴで披露してきたもので、ライヴ通いしていた者にはそれらが音源化された喜びも大きい。「道々」など最たる例だ。「終わりの季節に」もライヴ定番曲で、タワーレコード主催のイベント『新宿ミーティング』に出演した音源もある。前年2001年のライヴ音源盤『新宿ミーティング01』に収録されているが、新宿店のみでの販売だったので現在は入手困難かもしれない。蛇足だがラリーパパの次に初恋の嵐が収録されているところが粋だ。

サザンソウル風バラードの「心象スケッチ」がこのアルバムのハイライトと言えるだろう。5人全員の個性が凝縮されている。汗臭いチョウのリードヴォーカル、繊細なスチョリのピアノ、十夢と辻のリズム隊が支え、ガンホのギターが泣く。中盤の一部ではスチョリがヴォーカルをとり2人の声が重なりあう。焦燥感漂う歌詞とサウンドが一体化され、ガンホ一世一代のギターソロへなだれ込む。パーシー・スレッジの「男が女を愛するとき」のフレーズを盛り込んだ完璧なソロ。手癖のある彼のプレイが僕は大好きだ。

アルバムがリリースされた翌日からラリーパパは初のワンマンライヴを大阪、東京、横浜で行った。ツアータイトルは『Music from dreamsville』。大阪公演は8月23日に梅田、扇町のハードレインにて。かなり小規模のスペースで50人も入れるかどうかという場所。ステージも低く客席とほぼ同じ目線。第1部と第2部に分けて構成されたライヴはファンのフラストレーションを一気に払拭するかの如く16曲を披露。終始リラックスしたムードが漂い、デビュー盤、新作、未収録楽曲をスムーズに、あるいは丁寧に歌い、演奏する。さらに彼らのルーツを辿ると必ず出会う楽曲を次々と演奏した。はっぴいえんどの「抱きしめたい」をファンキーに、金延幸子の「時にまかせて」をゆったりと、ボビー・チャールズの「スモール・タウン・トーク」をジェフ&エイモス風に、ザ・バンドの「オールド・ディキシー・ダウン」の日本語バージョン「夏の夜の出来事」、グレイトフル・デッドの「ケイシー・ジョーンズ」。ルーツ・オブ・ラリーパパを惜しみなく披露。ワンマンライヴだからこその嬉しい選曲とパフォーマンスだった。

ルーツを垣間見れたのは演奏だけではなかった。開演前のBGM。あまりにも素晴らしいものばかり流れるので僕は思わずメモをとった。Dr.ジョンの「アイコ・アイコ」、「スタッカ・リー」、ブルース・コバーン「おはようブルース」、ボビー・チャールズ「ストリート・ピープル」、ボビー・ジェントリー「ミシシッピ・デルタ」、ザ・バンド「オフェリア」、「ラグ・ママ・ラグ」、オハイオ・ノックス「ランド・オブ・ミュージック」、ピーター・ゴールウェイ「ディサイディドリー・ファン」、ステイプル・シンガーズ「シティ・イン・ザ・スカイ」、ジョ二・ミッチェル「ビッグ・イエロー・タクシー」、ジェイムス・テイラー「ノーバディ・バット・ユー」など。これでもごく一部だ。トム・ウェイツ、ブリュワー&シップリー、ダン・ヒックスなんかもあったと思う。さりげないが自己主張の強い彼らの演出だったのだろう。そんな曲を聴きながらライヴを待つ、すごく気分が良かったのをはっきりと覚えている。

ラリーパパの初期のピークはここにあったように思う。初のワンマンライヴは間違いなく伝説の一夜になったはずだ。僕はそう感じている。あの場に立ち会えたこと、共感できたことはとても幸せなことだ。我々の世代の解釈でルーツ・ミュージックをこれほどまで体現するグループが存在していたのだから。