bannai452007-11-10

■Live / rallypapa & carnegiemama (Qbix-10)■
2004年6月10日、大阪はバナナホール。かねてから彼らが告知してきた公開録音ライヴの日。仕事が終わってから観に来れるように、と開場は19時、開演が20時、という配慮がなされていた。この日を重要視する彼らの意気込みがこれだけでも伝わる。僕が握りしめたチケットは整理番号74。開場前のバナナホールは熱気と殺気、そこに期待感も交錯するなか、いよいよ開場。前方のセンター付近のテーブル席を確保。やはり生演奏はセンターでバランス良く聴きたいものだ。

20時を過ぎ、BGMとして「ラスト・ワルツのテーマ」が流れ出す。曲がそろそろ終わろうかというとき、ラリーパパ&カーネギーママの5人がステージに現れる。水田十夢のアフロヘアは今日も大きいし、キム・ガンホはどんどんロングヘアになっている、チェックのハンチング帽が似合う辻凡人、前髪が短くキュートなキム・スチョリ、田舎の水谷豊みたいなチョウ・ヒョンレ。一様にいつもの土臭いファッションに身を包んでいる。歓声が、拍手が沸き起こる。ステージに立っている彼らも客席にいる僕らも録音されていることを知っている。えも言われぬ緊張感。なんだかお尻がむずがゆい感じもする。しかしこれがしっかりと記録されることへの感謝の気持ちと、これから始まる素晴らしいパフォーマンスに胸が高鳴る。

オープニングは「冬の日の情景」。ああ、フェードインしてきた...。ベースが、ドラムが、ピアノが乗っかっていく。安定している。個々のパートが確実な音を出している。ノープロブレム、今日は間違いなくすごいことになる。とてもグルーヴィーだ。

2曲目はこれまでのスタジオ盤に未収録の新曲「陽の昇る方へ」。これはガンホの作品だという。リードヴォーカルはチョウ。はっぴいえんどの『ラスト・タイム・アラウンド』における「氷雨月のスケッチ」のような佇まいだ。そのあと間髪入れず「終わりの季節に」を披露。冒頭3曲は実に哀愁に満ちた選曲だ。「ふらいと」の別バージョン「風来渡」はボブ・ブロズマンの「ニュー・ヴァイン・ストリート・ブルース」を下敷きにアレンジ。あっぱれ、なオヤジ臭い仕上がりにただ脱帽。ライヴ盤ではカットされている「夢の街へ」が続き、初期の名作バラード「風に乗って」までが前半パートという感じ。合間のチョウのMCがいつも以上につたない。元来MCの下手さは有名なラリーパパだが、この日は「録音されてますからね、みなさんしゃべってくださいねー」とか「録ってますから、ええ」というようなフレーズを何度も耳にした。結局本盤ではMC部分が殆どカットされはいるが...。大阪らしい野次も次々に飛び出す。「しゃべらんかー!」、「モノマネせぇー!」、「エロいー!!」とか。あたかも南海ホークスvs近鉄バファローズin大阪球場、のような。

中盤は「道々」からスタート。エンディング、次の曲に行くかと思うとギターが唸り、ドラムが跳ねる、キーボードがまとわりつく。チョウが歌い出した歌詞は「Wake up Mama〜!」。なんとオールマン・ブラザーズ・バンドの「ステイツボロ・ブルース」を始めてしまった。この日のスペシャルバージョンに客席は大盛り上がりだ。近くにいた50代くらいの男性客が「やっぱりコイツらアホやなー!!」と絶賛していたことを思い出す。熱気に包まれるなか一転してスチョリのバラード「あの空は夏の中」、浮遊感が心地良い「枯れ葉のブルース」へと続く。

後半は「まちとまち」から。ミーターズの「シシー・ストラット」や「ルッカ・パイ・パイ」のフレーズがふんだんに盛り込まれたニューオーリンズ・ファンク全開のアレンジはハイライトのひとつだ。間奏でのチョウのギターとスチョリのキーボードがアドリブ合戦、そこからガンホのギターソロへ、完璧だ。次の「どこへ行こう」のイントロに乗せてブラック・ボトム・ブラス・バンド(以下BBBB)をステージに招き、ザ・バンドもオールマンも真っ青な日本産アメリカンロックを展開。ホーンセクションの追加はやはり音の厚みが増す。BBBBはこのあと「夏の夜の出来事」、「心象スケッチ」も参加。ホーン入りのイントロの「夏の夜の出来事」はまさにザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』のそれで、最後は原曲の英語詞で歌う、ここは感動の瞬間である。

本編最後はおなじみの「心象スケッチ」。たしかイントロでガンホがギターを弾き間違えたと思う(本盤ではカット)。ガンホ一世一代のギターソロの余韻を噛み締めているうちにステージの照明が落ち、客席の照明がうっすら明るくなる。そして会場はアンコールを望む拍手が鳴り響く。

アンコール1曲目はスチョリの新曲「夢を見ないかい?」。オールドタイミーでノベルティーな楽曲。柔らかい。間奏では辻凡人のカズーも入る。エンディングは『ラスト・ワルツ』でのDr.ジョンを彷彿とさせ、ニンマリさせられる。本盤には未収録だが次も新曲だった。後期ラリーパパらしい洗練された楽曲で、しかもかなりの完成度だっただけに未収録は非常に惜しい。

ラストのラストは「ラスト・ショウ」。演奏しながらチョウがメンバーを順に紹介する。「新しい幕が今上がる」という歌詞がぐっとくる。鳥肌が止まらない。最後に辻凡人がドラムを叩きながらチョウの紹介をシャウトするところで目頭が熱くなったことを覚えている。


この年の年末、ドラムの辻凡人が脱退し、bonobosに正式加入。bonobosは元ラリーパパの集合体のようなバンドだから何ら違和感はなかったがやはりショックではあった。ラリーパパはドラマーとして正式メンバーを決めず随時サポートを擁して活動を続けた。明けて2005年には主にコーラスとサックスなどを担当したウラトモエが加入し、8月に最初で最後のシングル盤として「風の丘 / 黒猫よ、待て!」をdreamsvilleから発表。ラリーパパの都会風味と田舎風味、つまり表と裏をパッケージした快作だった。新生ラリーパパとしてさあこれから、と思わせたにも関わらず11月にキム・スチョリが脱退し、ソロ活動へと向かう。

2006年春、数回のライヴをこなしたあと、7月1日には彼らのホームページで正式に解散を発表し、約5年にわたるその活動に終止符を打った。


あふれる光の中で
とても幸せな気分さ
誰かの夢の続きさ
新しい幕が今上がる


例えば10年後。再結成を望むファンは多いだろうか?僕はそうなるのであればそれはそれで嬉しいし楽しめると思う。けれど、決して望みはしない。ラリーパパを解体し、彼らがそこからまた新しい音楽を生み出すことのほうが重要だと思う。新しい幕はすでに上がっているのだから。

例えば20年後。僕は50歳だ。若い世代からこう言われたい。

「ラリーパパってすごかったんですか?」