■MUSIC MAGAZINE1987年7月号とSongs■
僕の手元にはミュージック・マガジン1987年7月号がある。表紙はシンプリー・レッドのミック・ハックネル。巻頭では「ビートルズをCDで聞く」の連載で、『サージェント・ペパーズ』を取り上げている。ちょうど20年前だから、60〜70年代の名盤たちが続々とCD化されていたこの時代を物語る特集だ。他にもポール・バタフィールドの訃報(5月4日没)、「小倉エージのこれがヒットだ」のオリコンチャート1位はおニャン子クラブの「かたつむりサンバ」だったり。現在から1987年を俯瞰するのではなく、その瞬間瞬間の記事が生々しい。当たり前だ。当たり前だがしかし、当時の状況を知る文献としての資料性は十分に、ある。

これを87年当時に手にしていたかというと、とんでもない。10歳の子供がマガジンを読むわけがない。19歳のときに古本屋で200円くらいで買ったものだ。この号最大の魅力は「特集:再訪ニューオーリンズ・ミュージック」という記事があったからだ。僕にとっては再訪ではなく、まさにこれから訪れる場所で、ジャズ&ヘリテッジ・フェスティヴァル'87の記事(文屋章)やアラン・トゥーサンの活動歴(湯浅学)、ニューオーリンズR&B重要作のレビュー(中村とうよう、鈴木啓志、長門芳郎)など、このニューオーリンズの特集ページを何十回と読んだ。ニューオーリンズ音楽の書籍というものが極端に少なかったからかなり重宝した。

1987年から10年後の1997年9月、小尾隆氏の『Songs』が出版された。副題は「70年代アメリカン・ロックの風景」。オールカラーによる約160ページの中身は当時の僕には胸が躍るものばかりだった。バーズに始まり、L.A.スワンプ、カントリー・ロック、東海岸ウッドストック、中西部&南部、など各章を設け展開する。デザインといい、文章といい、無駄のないスタイリッシュな部分にも大きく影響を受けた。「45回転のCCR」や「B級スワンプの名盤たち」など、何度読んでも楽しめる。アルバムジャケットが全てカラーで確認でき、情報を最小限に絞り込んだレビューはレコハンに大いに役立った。

『Songs』にもニューオーリンズ音楽のことが書かれていた。「ニューオーリンズの光と影 Dr.ジョン」と「アラン・トゥーサン・コネクション」という項がある。嬉々として読んだ。マガジン87年7月号と『Songs』の2冊でニューオーリンズ特集は10数ページ、情報としては決して多くない。が、彼の地への道がより鮮明に開かれたのは言うまでもない。

1997年から10年。つまり今年。『Songs』の増補版が発売された。そうか、もう10年経つのだな、としみじみしてしまう。増補版にはボブ・ディラン、マーク・ベノ、佐野元春などの他、映画「あの頃、ペニー・レインと」の項も追加されている。僕のフェイヴァリット・ムーヴィーのひとつだ。和訳されたエルトン・ジョンの「タイニー・ダンサー」の歌詞を読むと胸がキュンとする。あの映画のハイライトシーンだ。


97年版、小尾氏のあとがきの最後には、
「22年前にシュガーベイブが残した、素晴らしいアルバムのことを思い起こす方も少なくないだろう。街のレコード店にこのLPを買いに走ったのは、忘れもしない75年の春。僕が高校二年の時のことだ。
ところであなたは、75年にどこで何をしていましたか?」


75年に僕はまだ生まれていない。くやしいな。切ないな。


Songs―70年代アメリカン・ロックの風景

Songs―70年代アメリカン・ロックの風景