bannai452007-12-14

■サッド・カフェでコーヒーを / 北中正和 (1980)■
古い書籍でおそらく絶版だろうが、よく読んだ1冊で最近また読み返したところだ。主にアメリカとイギリスのロックについて書かれたもので、第1章は60年代のスーパースターたちの10年後を追っている。ビートルズストーンズボブ・ディランザ・バンドなど。2章は70年代の西海岸を中心に。イーグルスニール・ヤング、ジャクスン・ブラウンなど。最後の3章は70年代後半のクロスオーバーとパンク周辺をめぐっている。

具体的な年代でいうと1976年から1980年まで。ロックの衰退期からパンクの台頭を身をもって体験しているからこその内容は、後追い世代の僕には羨ましいものだった。まぁ僕の場合、大抵の書籍は著者に対して羨望の眼差しで読んでいるのだけれど。

イーグルスの項で『ロング・ラン』につていの文章がある。僕はここが好きだ。

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『ロング・ラン』のアルバムから最初に受けたイメージは、音楽からレコードジャケットのデザインまで含めて、実に暗くて重いということであった。その暗さは「ホテル・カリフォルニア」からの出口はどうなったのかという問いにも、不安な材料を投げかけている。今のところ、その回答は、新規まきなおしで走り続ける決意をしたわりには声の沈んだ「ロング・ラン」と、美しいが通夜の会話のようにひっそりとした「サッド・カフェ」のひきこもったままの夢の間をさまよっているようである。

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"美しいが通夜の会話のよう"。「サッド・カフェ」の表現でこれ以上のものはおそらく存在しないだろう。この「サッド・カフェ」という曲は亡くなったイーグルスのロードマネジャーに捧げられた1曲で、歌詞の内容も「ホテル・カリフォルニア」の続編というような喪失感が漂う名曲だ。北中氏も本文で触れているが、アルバム冒頭の「ロング・ラン」との対比が実に興味深い。

古本屋や中古レコード店などで見つけた際は迷わず手に取ってみてほしい。そしてコーヒーを飲みながら読んでみることをおすすめする。


「やあ、どこに行くんだい?」
「サッド・カフェでコーヒーを、ね」