bannai452008-10-06

■Bleecker Street Greenwich Village in the 60's (1999)■
アメリ音楽史に限られたことではないが、その土地その土地によって生まれる音楽の面白さというものがある。地域性、文化、気候などでその特色は様々だ。広大なアメリカ大陸だとそれはなおさらのこと。メンフィス、シカゴ、テキサス、ニューオーリンズウッドストックフィラデルフィア、ボストン、デトロイト、ロサンゼルス...。思い付くままに記す音楽都市の数々。しかし僕にとってまさに聖地となるのは、ニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジだ。

ブリーカー・ストリート。つい口に出したくなる通りの名。60年代、この通りを中心に生まれた音楽に敬意を表してしまうのは僕だけではないはず。フレッド・ニール、ディラン、ティム・ハーディン、トム・ラッシュ、ラヴィン・スプーンフル、フィル・オクス、枚挙に暇がない。20世紀が終わろうとしていた99年、彼もまたこのストリートで青春を過ごしたひとりだったピーター・ゴールウェイ。そのゴールウェイが手掛けた『ブリーカー・ストリート〜歌い継がれるグリニッチ・ヴィレッジの名曲』という企画盤は僕の愛聴盤のひとつである。

60年代の瑞々しい音楽の数々を後輩たちが静かな情熱で歌う。サイモン&ガーファンクルの「ブリーカー・ストリート」をジョナサ・ブルックが歌うところからアルバムは始まる。マーシャル・クレンショウやカーティス・スタイガース、ジュールズ・シアー、ベス・ニールセン・チャップマン、ジョン・ケイルスザンヌ・ヴェガ、クリッシー・ハインドらがかつての名曲を歌う。なかでもひと際存在感を示していたのは、ロン・セクスミス。この曲以外は考えられないであろうベストな選曲、ティム・ハーディンの「リーズン・トゥ・ビリーヴ」はこのアルバムのハイライトと呼べそうだ。

ゴールウェイ・ファンとしては1曲くらい彼の歌を聴きたかったところだが、それはファンのエゴ、というものか。参加メンツは80年代から90年代に活躍しているアーティストが中心で、一見すると地味な印象だが、実力派というべき彼らをセレクトし、各人の個性も引き出しつつ、全編を通して一貫性のあるサウンドに仕上げているところはプロデューサーとしての采配が光る。


水曜の朝、午前3時。冬のブリーカー・ストリートを歩く。ワシントン・スクウェアには見渡す限りの真っ白な雪が積もっている。身体の芯まで冷えてしまいそうだが、インストゥルメンタル・バージョンの「ターン・ターン・ターン」に優しく包まれ、しばしのあいだ、凍てつく寒さを忘れてしまう。