bannai452009-05-31

■The Basement Tapes / Bob Dylan & The Band (1975)■
ウッドストックサウンドと呼ばれる音楽の多くは、古い木造家屋の床が軋むような音があちこちに潜んでいる。そしてどこか閉鎖的な空気が漂ってもいる。カナダやアメリカ各地からこの地に引き寄せられたアーティストたちが数多くの名盤を落としていったにも関わらず、だ。

薄暗い地下の一室、湿り気を含んだ空気、ウイスキーの空瓶があちこちに転がっている。1967年のアメリカ、地上にはサマー・オブ・ラヴを謳歌している人々、かたや勝手気ままに好きな古い音楽を奏でていた6人の若者たちが地下に潜んでいる。数年後、時代が自分たちに追いついてくることを既に見透かしていたのだろうか。迷いや憂いというものが一切感じられないこのセッションを聴く度にそう思う。


のこりもの よせあつめ
なくした時はもどらない


67年から8年後の75年に『地下室』としてようやく正式発表されたが、冒頭を飾る「オッズ・アンド・エンズ」の一節が全てを物語っている。

bannai452009-05-21

■My Name Is... / チョウ・ヒョンレ (2006)■
自主制作盤ならではの手触りがたまらなく愛おしい。私的な歌の内容やシンプルなサウンドは70年代前半の北アメリカあるいはカナダのSSWを彷彿とさせる。ジェフ・マルダーをフェイヴァリットに挙げているだけあって、その影響や共通性も見逃せないだろう。

『My Name Is...』は2006年に発表された。気付けばもう3年が経つ。その後、dreamsville recordsからシングル『ベイビー』を発表したあと、年間数えるほどのライヴだけで、本格的に活動を休止していた。しかし先日、自身のブログで復活宣言が記されていた。いよいよ、という感じだ。待った甲斐がある。
今年はチョウ・ヒョンレの新曲が聴けそうだ。

good time music .com vol.Precious

昼間の熱気がほのかに残る夏の夜
いつもの公園を通り抜けていく
木製のドア いびつなテーブル 止まったままの時計


この場所で好きな音楽の話をした
この場所で仕事の話もした
人生についても語り合った
調子に乗って酔い潰れたこともある
たくさんの素敵な出会いもあった


場所というものがそこに存在すれば
記憶というものがそこに刻まれる


I must be in a good place now

ああ、なんて素敵なところにいるんだろう


明日は何処へ行こうか
明日になればわかることさ

終りの季節にさようなら
始まりの季節にこんにちは

Preciousのはっぴいえんど
どう終るかじゃない
どう始めるかだぜ

bannai452009-04-28

■愛の秘密 / 寺尾紗穂 (2009)■
骨董品のように大仰ではなく
生活の一部として長年使い込み
人生に溶け込んでいるお気に入りの和食器のように
舶来の匂いがまるでしない 和の食器
繊細でありながら大胆 且つ凛としている


2006年のデビューから年間1枚の均等なペースを保ち、今回で4作目。いずれも3月から5月にリリースされ、この季節になると自然と身体が彼女の音楽を求めていることに気付く。アルバム冒頭の「お天気雨」、「天気雨」ではなく「お天気雨」というところが寺尾紗穂なんだ、と思う。

bannai452009-04-21

■Lark / Linda Lewis (1972)■
溌剌にして快活、あるいは流麗
身体にまとわりついていた冷気が
いつのまにか姿を消していくこの季節が似合う
これだけ輪郭がはっきりしている声の持ち主なのに
アルバム全体の印象は
まるでパステルカラーで描かれたような
柔らかく、そして少しぼやけていて
すぐにでも水に溶けてしまいそうだ

bannai452009-04-16

■Freedom Is / Peter Gallway (2008)■
本国アメリカでは昨年にリリースされていたようだ。前作『リズム&ブルース』は日本盤がリリースされただけに今作はそのへんが残念ではある。

とはいえ安定したピーター・ゴールウェイの音楽はいつものように僕を優しく包み込んでくれる。共同プロデューサーにジェフ・ピーヴァーがクレジットされているところも見逃せない。デヴィッド・クロスビーやジェイムス・テイラーカーリー・サイモンのレコーディング、他にもローラ・ニーロの遺作『エンジェル・イン・ザ・ダーク』にも関わった人物だ。

ナイト・アウル・カフェやブリーカー・ストリート、ストレンジャーズ、フライング・マシーン、バンキー&ジェイクなどが歌詞にずらずら出てくる「JT & ザ・ストレンジャー」(タイトルもそういうことだろう)はファンならばつい頬が緩んでしまう。おまけに「ターン、ターン、ターン」の一節が盛り込まれるところなど思わずハッとしてしまう。歌詞カードがあればもっと世界に入り込めるのだが。

派手な装飾、大衆性というものは、無い。それは今に始まったことではないからとやかく言うことではないだろう。いつも手の届く場所に置いておきたい1枚がまたしても増えたのだから。