bannai452009-07-11

■日暮しグルーヴィアン / 風博士 (2009)■
風博士という名前はずいぶん前から僕の脳に刻み込まれていた。しかしそれは「風博士」という字面だけで彼の演奏する音楽のことは全く気にもかけていなかった。少しのきっかけと、偶然(あるいは必然)の出会いまでに至らなかったということなのだろう。
記憶を辿ると、それはラリーパパ&カーネギーママの活動期間とリンクする。いくつかのライヴイベントで彼らは同じステージに立っていたはずだ。当時、僕は実際に風博士のパフォーマンスを目にはしていないが、フライヤーやインターネット上で、やはり文字としての「風博士」に出会っている。


そして、2009年。当時、風博士を聴こうとしなかったことに疑問を感じている。むしろ憤りすら感じている。とても素晴らしい音楽だ。気持ちいい。ルーツを探ろうと思えば森の奥にひっそりと存在する瑞々しい湧き水のように溢れて出てくる。

『日暮しグルーヴィアン』。全9曲。今年3月に発表されている。1曲目から4曲目までの流れが特に素晴らしい。優しく跳ねるアコースティックギターと透き通った風博士の歌が風に乗って僕の部屋を訪れる。


あの日、ヒッピーみたいな僕の友人がラジオで「風博士の風まかせ」を聴かなければ、そしてあの日、ヒッピーみたいな彼が自転車で京都に向かわなければ、僕の人生における風博士は涼しくて心地良い初夏の夜風のように、するりと通り過ぎていたかもしれない。
僕は思う。
そこには少しのきっかけがあり、必然の出会いが待ち伏せていたのだと。

bannai452009-07-08

Jackson Browne / Jackson Browne (1972)■
7年前のことだ。
僕と友人B夫妻の3人は、阪急神戸線塚口駅から歩いてすぐのところにあるバーのカウンターに腰を下ろしていた。8月のことだったと記憶している。僕の記憶力は相当いいほうだからおそらく間違いないだろう。僕はそういう人間なのだ。

薄暗い店内、カウンターの奥にジェシ・デイヴィスの『ウルル』のLPがひっそりと置かれているのが印象的だった。厄介な音楽バーにありがちな押しつけがましさは皆無で、居心地の良い風格のようなものだけが店内を包み込んでいた。

窓の外に見える駅前の七色のネオン、物静かなマスター。気分上々の友人B。ここにピンボールがあればな、と思いながらジントニックを啜る。

ある夏の断片、僕たちはカウンターに肘をつきながら話し込んでいた。情景の細部まで思い出すことができる。ごく控えめに言って、その日の服装まで思い出すことだってできる。けれどその空間で流れていた音楽のことだけは不思議と思い出せない。僕の記憶力は相当いいほうなのに、まるで思い出せない。情景に溶け込んでいるはずの音という音が聴こえてこない。

それでもなんとか記憶をたぐり寄せ、音のない世界でボリュームを最大限までひねってみる。するとどうだろう、ジャクソン・ブラウンの歌が微かに聴こえてきた。

bannai452009-06-30

■Mike Finnigan / Mike Finnigan (1976)■
ジミ・ヘンドリクスの『エレクトリック・レディランド』、ジャニス、CS&Nなど、キーボード奏者として数々のセッションを渡り歩いてきたあと、ジェリー・ウェクスラーを指揮官に迎え制作した傑作ソロ作である。
ロジャー・ホーキンズ、デヴィッド・フッド、バリー・バケットらのマッスル・ショールズ軍団の素晴らしいバックアップもさることながら、何と言ってもビリー・ジョエルの「ニューヨークの想い」におけるエイモスのギタープレイだ。目立ったソロプレイは聴けないが、男臭いフィニガンのヴォーカルにずっと、そっと寄り添う。
優しく、いつまでも。

bannai452009-06-10

■Beneath the Buttermilk Sky / 中村まり (2009)■
土臭く香ばしい音楽が灰色の空に溶けていく
これはいつか見た風景 懐かしい匂いがする
そんな錯覚におそわれる
柔らかいアコースティックギターの音色
瑞々しさを含んだ歌声はどこかくすんでいる
まるでバターミルク・スカイのように

bannai452009-06-05

■John Simon's Album / John Simon (1970)■
ジョン・サイモンのアルバム。
そう、これはジョン・サイモンのアルバムであり、ジョン・サイモン以外の人間には生み出すことはできない。彼の頭の中に響いている音や言葉を具現化すると、こういう音楽が生まれるのだろう。凡人には到底作り得ない代物だ。
驚くほどの名曲があるわけでもない。歌はどちらかというと下手な部類だ。裏方が歌うアルバムの代表格のような佇まい。けれど味わい深い。いや、だから味わい深いのか。
ザ・バンドの面々や豪華なゲスト陣が参加していることも重要だろう。だがジョン・ホールの奇天烈ぶりこそ、このアルバムの肝だと思っている。特に「ヴェルヴェットを着た愚か者」におけるプレイは狂気的だ。フェイドアウトしていく最後の最後まで聞き逃したくない衝動にかられてしまう。

初めて聴いた10代後半、取っ付きにくい印象は否めなかったが、あとあとボディに効いてくる。これもまたウッドストック産の音楽の特徴だ。